【あきこ】 |
私たちは問題を提起するだけでなく、ではどういう住宅なら安心して、健康に暮らせるのかということも考えました。このころすでにアメリカでは「室内環境汚染」や「化学物質過敏症」について、非常に研究が進んでいて、積極的な治療法や解決策が生み出されていました。以前にアメリカに住んでいたということもあって、そうした研究機関を訪ねました。日本とはまったく違っていて、驚くばかりでした。診療機関もあるし、そういう人たちが集まって暮らしているコミュニティもあるんです。そこで、壁も天井もベッドも家具も、すべて化学物質を一切使用しない住まいなども見せてもらいました。 |
【春 男】 |
化学物質依存社会の行き着く先を見たという印象でしたね。アメリカでの見聞を通して、日本の住宅業界のもつ問題点や、本当に人が暮らすのにふさわしい住まいとは、ということがようやくわかったのです。 |
【あきこ】 |
アメリカだけでなく、世界各地の住宅も見て回りました。 |
【春 男】 |
たとえば、地中海地方の白い家は、石の上に石灰を使っていますが、その中はひんやりとして居心地がよい、つまり、その土地でとれる自然素材を使って建てることが一番なのです。高温多湿の日本では、昔から通気性のよい木と土と紙が使われてきました。つまり、ビニール壁紙ではなく塗装、化学処理で作られる新建材ではなく天然の材木こそ、快適な暮らしを約束してくれる素材であるといえます。そして、構造的にも通風に気を配り、基礎と土台はとくにしっかり造る。柱や梁など家の骨格というべき構造材には良質のものを用いる。これだけでも、室内汚染に苦しめられない快適な住まいになります。 |
【池 本】 |
昔の家の多くは、いま先生のおっしゃった条件を備えていたと思いますね。それが、戦後、とくに東京オリンピックのあった1964年前後に建築ブームが起こって、「より早く、より安く」という家づくりが主流になっていってしまったのではないでしょうか。このとき同時に、職人不足で、塗壁のように手間のかかることが敬遠されてしまいました。在来工法なら20~30mmの厚さで塗っていたものをたった2~3mmで済ませてしまうような工法がまかりとおり、そのころから壁は塗るものではなく、張るものだという意識が一般の人々に浸透してしまいました。 |