仕上げの程度にかかわらず得られる、表情の豊かさが魅力

漆喰(しっくい)仕上げは、長い歴史の中で培われ洗練されてきた左官工法である。ごく簡易な仕上げから丹精込めた上等な仕上げまで、それぞれに価値ある表情がある。「撫で」「押さえ」「磨き」などの鏝操作により、独自の質感を備えた幅広いテクスチュアを創り上げることができる。
漆喰押さえ仕上げ
歩掛 3m2/人日
特徴 最も基本的な漆喰仕上げの一つ。これまで土蔵の壁などに多く行われてきたもので、金鏝などで押さえて仕上げる。
漆喰パラリ仕上げ   土佐漆喰押さえ仕上げ   漆喰引摺り仕上げ
歩掛 3m2/人日
特徴 漆喰を撫でる程度で粗面に仕上げるもの。京都御所の壁にもこの仕上げが用いられている。粗放な表情が味わい深い。
  歩掛 3m2/人日
特徴 土佐漆喰は一般の漆喰と異なり、糊を混入しないため水に強く、厚塗りができる。また施工後は、白色に変化していく。
  歩掛 3m2/人日
特徴 引摺ることで表面に微妙な凹凸を加味する。漆喰の持つ柔らかな質感に、さらに深みを与える仕上げ。
卵漆喰押さえ仕上げ   黒漆喰本磨き仕上げ   赤漆喰押さえ仕上げ
歩掛 3m2/人日
特徴 一般に「白壁」のイメージが強い漆喰だが、色粉を加えることで、一味違った表情を創り出すことができる。
  歩掛 2m2/人日
特徴 灰墨を入れた漆喰をムラなく塗り付け、丹念に磨き上げていく。その微妙な光沢は落ち着きと格調高さを感じさせる。
  歩掛 2m2/人日
特徴 赤い顔料を加えた漆喰を塗り付け、平らに押さえて仕上げる。鮮やかな発色の中にも不思議な趣きがある。

漆喰塗
湿気の呼吸性や断熱性に優れ、種類も豊富
■特色
漆喰は、消石灰に砂、糊、スサなどを混入した日本独自の塗り壁仕上げ材料。城郭や土蔵など伝統的建物に塗られた純白の漆喰壁が広く知られるが、色粉を加えた色漆喰や材料に糊を使わない土佐漆喰など、その種類は実に豊富である。最近は材料が入手しづらくなっているが、自然のサイクルに適合した塗り壁として、その価値が再び見直されてきた。
■適した部位
材料の調合によって可塑性が自由に調整できるため、住宅・一般建築の内外壁、塀などにとどまらず、屋根のほか彫塑材としても使われる。
■性能評価
古くから土蔵など気密性の高い建物に多く使われてきたように、湿気の呼吸性や断熱性に優れている。また、その防火性能についても相当高い評価が与えられる。
■施工工程
強度が低いため、塗り厚を薄くし、塗り回数を多くするのがポイント。木摺下地の場合、とんぼの一つを延ばして下塗りし、木摺間に十分に摺込む。下塗り後は10日以上おいてムラ直しを行った後、残りのとんぼを摺り込んでいく。上塗りは中塗りが乾ききっていない状態を確認して行う。これより前工程ではできる限り通風をなくすのが良いが、上塗り後は逆に通風を与えて乾燥させるようにする。低温下での施工は避ける。
施工工程断面図
(木摺下地の場合)
施工工程フローチャート
(木摺下地の場合)
■下地
木摺や木舞壁、土真壁などの伝統的な下地のほか、コンクリート系、レンガ、セメントモルタルにも適合する。また、剛性はこれらにやや劣るが、鋼製金網やラスシート下地も使用できる。石膏ラスボード下地には、その表面にアルカリ侵入を防ぐサイジング処理を十分に施して使用する。
■材料と調合
糊材には、ぎんなんや、つのまた(角又)などの海藻糊(ふのり)のほか、種々の化学糊が用いられ、これらを消石灰や貝灰と調合して使用するが、現在は既調合の袋詰め材料を用いることが多い。スサには麻系統の材料が多く使用され、漆喰の収縮性を低減するために川砂を混和することもある。なお、土佐漆喰には糊材は使用しない。

 
消石灰
川砂
つのまた糊※
すさ※
下塗り
1(下塗り用)
0.1
1000
900(白毛)
ムラ直し
1(〃)
900
800(〃)
かの子擦り
1(〃)
0.2
800
700(〃)
中塗り
1(〃)
0.7
700
700(〃)
上塗り
1(〃)
0
500
400(さらし)
※消石灰20kgにつき(g)
■仕上げ
【磨き仕上げ】麻スサを数層にわたって塗り付けた上に、さらに紙スサを数度にわたって塗り付け、最後に押さえ込んで、磨き鏝や手擦りで丹念に磨き上げる。相当な日数を要する最上級の仕上げ。
【鏝押さえ仕上げ】磨き仕上げより塗り付ける層の回数を少なくし、最上層は磨かずに鏝で固く押さえ込んで仕上げる。表面の質は鏝のかけ具合によって微妙に変わってくる。
【色もの漆喰仕上げ】中塗りが終わり、約1日放置した後、水引き加減を見て色もの漆喰を薄く塗り付けていく。その後、数層にわたって色もの漆喰をムラなく塗り付け、最後に撫で鏝で通し撫でを行って丁寧に仕上げる。冬場の色もの仕上げはムラが出やすいので避ける。
■メンテナンス
漆喰に混入する糊は保水性を高め、作業性を向上させる利点を持つが、その半面、乾燥後の収縮率が高いため、時としてクラックが入ることがある。その防止のためにはスサを塗り材に混入するとともに、塗り厚をできるだけ薄くし、塗り回数も多くする。
かの子擦りの施工 上塗り(塗り付け)の施工 上塗り(押さえ)の施工 引摺り仕上げの作業
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