素材と工法(素材:糊・混和材料)
糊・混和材料
ヨーロッパでは煉瓦や石等が下地となっているために下地に十分に水打ちができます。その水打ちで作業のオープンタイムを調整することができます。ところが、日本では古来より下地が土であるためにそこへ水打ちすることは不可能で、塗り壁材の方に工夫を施すことになります。すなわち土物壁・漆喰に粘性・保水性を与え、乾燥硬化後に結合と固結を増すために糊材を混入してきたのですが、主に壁材料の作業性の向上にあります。最近は合成樹脂による糊の効果によって、モルタルの性能が高められ、1回に塗りつけられる許容を越える厚付けモルタルなどが開発されてきています。これなども糊によって改善された左官材料の開発であるといえます。
【1】海藻糊(角又糊)
安土・桃山以前には漆喰用糊材は米粥等のでんぷん質を主体とした高価な物が使用されていたため、一般化しなかったと山田幸一博士は伝えております。江戸時代になって海藻(ふのり、角又)などの煮沸液を漆喰に糊として用いる方法が開発され、それによって漆喰仕上げが一般庶民の手の届く存在になったと言われています。現在では角又糊を粉体にしたものが一般に用いられていますが、昭和30年代までは、角又(銀杏草)を2年以上乾燥させた品を弱火でもって煮炊きし溶かし、それを篩にて滓を取り払って漆喰に混入していました。角又とは鹿の角を思わせるのでこの名称が付いたといわれています。産地によって葉の形状も色も糊としての性質も異なります。典型的な自然素材の糊材料であると言えましょう。
水に戻された海藻角又
【2】メチルセルロース(MC)
MCとも略称されていますが、もともとは界面活性剤あるいは食料品などに粘性を与えるための工業薬品として製造されていたものであります。これが漆喰用の糊として使用できることがわかり、昭和30年代の終り頃から急速にモルタルや左官材料に使用されてきました。白色粉末であり、少量で強い効果を発揮するのが特徴です。セメントモルタルでは0.2~0.5%の混入で通常のこて塗りに適した粘性が得られます。
【3】エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)
エチレン酢酸ビニル共重合樹脂のことでポリエチレンのような軟らかさがあり、弾性的性質、低温特性に優れるいます。左官用としては酢酸ビニルを乳化重合として得られる乳白色溶液で左官用糊材・吸水調整剤として使用します。糊材としてはではなく、これに骨材を加えて固桔材として、使用する場合もあります。最近では粉末になったものも発売され、ドライミックスでの使用範囲は広がっています。
【4】スチレンブタジエンゴムラテックス(SBR)
スチレンとブタジエンを共重合させた合成ゴムで天然ゴムに近い物性を持ちます。モルタル混入によって作業性・接着性・保水性、硬化後の保水性・耐衝撃性・曲げ特性が高くなり、硬化後の乾燥収縮も改善されます。SBR固形分でセメント重量の約4~5%以上の添加で接着強度を向上させます。下塗りに用いるときはモルタルの強度低下をきたさない調合とすることが肝要です。
【5】無機質の混和材
消石灰、フライアッシュ、浅黄土などは糊としての機能も含まれるており、塗り材料の保水性・作業性が向上されます。多量添加によって強度の低下が生じることもあるので注意をする必要があります。混入量はセメントの15%内外とし、下塗りに使用せず上塗りで用いるようにします。
【6】減水剤
減水剤は、空気連行剤(AE剤)等とともに表面活性剤と呼ばれているもので、これを混入した左官材料は表面活性作用によって、セメント粒子を分散させてモルタルの作業を良くし混水量を少なくします。その使用量は、左官材料の強度、下地への接着性等に著しい影響のない程度とします。
【7】防水剤
防水剤は、一般に防水剤入りモルタルと呼ばれる塗り層に用いるもので、水ガラス系・脂肪酸系・合成樹脂系等があります。セメントペーストやモルタルに混入するタイプのものもあり、ポリマーディスパーション等も混入量が多ければこれと同様の防水効果があることが実証されています。防水剤によっては塩化カルシウムを配合したものを、サッシュのトロ詰モルタルに用いて、サッシュ枠を腐食させた事例もあるので、使用箇所に注意する必要があります。
【8】再乳化形粉末樹脂
ゴムラテックス又は樹脂エマルジョンに安定剤などを加えたものを乾燥して得られる微粉末の材料です。一般に使用されているエマルジョンタイプと異なり粉体であるためドライミックスが可能となりました。使用方法が簡便なため今後は多岐にわたり需要は大幅に伸びると思います。