吉田兼好の「徒然草」に「家の作りは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き比わろき住宅は、堪へがたき事なり。」とあるように、高床で開放的な住宅がよいとしました。一方では農民、一般民衆の住宅では夏の暑さより冬の寒さから身を守る方を優先し建物全体を土壁で覆い断熱効果を高めました。ここで使われた左官の塗り壁は古来からの伝統的建物で育まれ、歴史的にも断熱性・吸放湿性・防火性と様々な機能に富んでいることは十分証明されてきています。

さらに塗り壁はVOCを吸収して化学物質過敏症対策に効果があることが判明してきています。そもそも、左官材料は自然素材が中心であるため解体後は自然にもどります。塗り壁は人の手によって仕上げられ、その肌合は優しさがあり人々をリフレッシュさせます。その塗り壁の良さを小俣一夫先生は次のように述べています。

「より快適な住宅」と「老朽化住宅の改善」を塗り壁で実現

小俣一夫先生
(日本建築仕上材工業会 副会長・技術委員長/技術士)

新築あるいは改修直後にツーンとする臭いを感じるときがあります。入居する前に有害揮発性化学物質を追い出す必要があります。これらの有効な方法としてベークアウトを行うか、強制排気を少なくとも2週間続行します。それでも不十分な場合は転居するか、有害建材の交換を行ってください。家具、カーテン、カーペットにも注意する必要があります。

自然素材を代表する土の塗り壁のように完全無害の材料・工法を採用することができない場合、あるいは既存の建物に対する対策として有害物質を軽減する方法も必要となります。現在いろいろな工法が行われ、製品化されていますが、けい藻土壁材もその一例です。シックハウス対策用としてけい藻土壁材が現在人気があります。しかし、これは我が国の伝統壁材で日本壁とも呼ばれる土壁の延長線上にあるもので、性能的には高い吸放湿特性、有毒ガス吸着性能がありまして、かつその上にマイナスイオンを発生させる壁材でもあります。単なる土塗壁というのではなく、それぞれの性能が高い方がよいということになります。そのためには高吸放湿性といった材料の特性に加えて、塗り厚が厚い程よいといったような施工法も考慮されなくてはなりません。

吸放湿性などの性能を高める材料として、けい藻土、ゼオライト、火山灰シラスなどが使用されています。また吸放出性を阻害する合成樹脂エマルションなどはなるべく使用しないようにするとか、上塗りとして合成樹脂系材料は使用しない方がよいといったような注意が必要です。

また、古くからの日本の農家建築は内部はマイナスイオンが豊富なことが報告されいます。吸放湿特性のよい壁材の場合、室内を乾燥した空気が吹き抜ける時、壁からの水分が蒸発します。この蒸発時の水分のクラスター(水分子集団)は十分小さくマイナスに荷電しています。これに空気中のプラスイオンが吸着されることによって室内の空気はマイナスイオンが豊富に生成されると考えられます。したがって、けい藻土壁材のようにより、より高吸放湿壁にする程マイナスイオンの豊富な環境になるといえましょう。