塗り壁で人と環境にやさしい建築をめざして

ひと・環境計画の建築家高橋先生は

健康な建築をめざして
地球にやさしい建築をめざして
自然と共生する計画をめざして

をコンセプトにして長年研究し、それを設計活動に生かし多くの作品を手がけていることで有名です。高橋先生は環境共生の関わりの中で、左官材料に関して次のように述べています。

高橋 元先生
(ひと・環境計画)

 人と環境にやさしい建築をつくるためには、人と環境にやさしい建材が欠かせない。その代表的建材が木材であり土である。この二つは建材グループの王者であり女王といえるが、いずれも人類が古代から慣れ親しんできたものである。

人と環境にやさしい建材とは、具体的に次のような意味であろう。

  1. 人の健康を脅かす有害な物質を含まない。
  2. 動植物の生息生育に支障を及ぼす物質を含まない。
  3. 製造時や使用時にオゾン層を破壊する物質を放散しない。
  4. 製造エネルギーが少ない。
  5. 再利用や再生利用が容易である。
  6. 枯渇資源を使っておらず、資源はほぼ無尽蔵にあるか自然成長資源である。
  7. 適正な維持管理下でかなりの耐久性が期待できる。
  8. 廃棄時の問題がない。(非燃焼毒性、生分解性、有害物質の非溶出性、解体時の非有害性など)
  9. 健康快適な室内環境をつくるのに役に立つ建材である。(調湿性、蓄熱性)
  10. 心理的な快さをもたらしてくれる建材である。(木目、風合い、音の反響)

木材と土のみがこれらの条件を満たす建材で、他にはこれに匹敵する建材は今のところ存在しない。ここでは特に土系建材にスポットをあててみる。

土と木は人と環境にやさしいという共通の特徴があるが、一つの点で異なる。木の有機物と土の無機物の違いである。無機物の特徴は永遠に腐らず、燃えない。これは長所にもなり短所にもなる。他の特徴は木と共通するところが多い。

内装材に土系の建材をある程度以上の厚み(3~5mm)で使うと、少なくとも短期の調湿性が期待できる。防火性能もセッコウボードと組み合わせればそこそこある。木舞土壁工法で、ある程度厚ければ、長期調湿性能プラス蓄熱性能が期待できる。もちろんその中に有害物質を添加してはだめである。有害な合成樹脂や防かび、防虫剤は使ってはいけない。

適正な土を建材に使うことはすべての人が満足できることになる。蓄熱性という日本の住宅であまり考慮されなかった性質に土は今後大切な役割を果たすであろう。土の持つ可能性は大きい。土に断熱性能をどのように加えるかというテーマだけでも、さまざまな建材開発の可能性がある。左官の仕事はまさにこれに貢献する未来的な仕事といえる。左官は湿式工事と決めてかかることもない、無機系建材を扱うすべての仕事は左官になんらかにかかわっているからである。