左官工法の実際とテクスチュアの表現

多様化する建築主のニーズに応える左官工法の意匠性・機能性・安全性。



 

磨きぬかれた技と自然の持つエネルギーが床・壁・天井に新たな生命力を注ぎ込む。

見るほどに味わいのある肌合い。これは技能工の鏝さばきによる左官工法ならではの表現である。長年にわたって培われてきた日本の住まいに対する知恵と伝統技能によって確立された多くの工法は、明治期に洋風建築工法をも吸収し、今もなお現代建築に柔軟に対応し続けている。

さて、その表面仕上げを支えているのは、基本となる材料、混ぜもの、そして仕上げの3本の柱である。これらの組み合わせによって表現方法は無限に広がり、そのバリエーションは今日も、新しい材料や工法の出現により、ますます多彩なものとなりつつある。

しかし、左官工法は単に意匠だけを意識したものではない。機能的にも優れた力を発揮するのである。建物自体の耐久性を高めることは、古くから残る歴史的建造物の多くが、今もなおその美観を保ち続けていることによりはっきりと証明されている。

その理由の一つは、塗り壁自身が持つ湿度調整機能にある。左官工法による塗り壁はそれ自体が湿度を調整し、室内に湿気をため込まない。したがって乾式工法で問題とされるような壁面の結露が生じず、必要以上に防カビ剤や防ダニ剤を用いずに済むのである。

このことは、左官工法が建築物の耐久性を向上させるだけではなく、住まいの健康や環境保護の観点から見ても高い効果を発揮することを意味する。今後の住環境を考慮すれば、非常に有効な工法だと言えよう。しかも長くクオリティーを保ち続けるので、経済的な面でも優れた工法だと考えられる。

 

磨き込むことにより鏡のような優雅な光沢を得られる漆喰(しっくい)塗、藁スサや色砂などの素材感を混ぜ込んだ土壁塗、素材のなめらかさを存分に活かしてさまざまな造形美をもたらす石膏プラスター塗、骨材が持つ天然の素材感を表面に出して表現する洗い出し、研ぎ出し仕上げなど、左官工法はまさに無限の表現力を持つ。さらに左官技能工の技に自然の力も加わって、二つとして同じものは存在しない。

左官工法は新建材を用いた乾式工法と比較すれば、非常に手間のかかる作業であることは言うまでもないだろう。しかし、完成した床・壁・天井の持つ表情や機能性は決して乾式工法では実現不可能な世界なのだ。既調合材の登場により大幅な工期短縮も可能となった今、左官工法がますます注目されることは間違いない。

左官建築物の紹介